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(一部ネタバレがあるので注意。)
10年前の8月、私はManchester郊外、Macclesfieldの火葬場に立っていた。
イングランドらしい小雨が降り、8月だというのに肌寒い。
日本の火葬場とは違い、煙突のある建物の周りには墓が並んでいる。
火葬場から通じる小径には、Memorial Stoneと呼ばれる、小さな、縁石のようなの墓石が連なっている。
その小径を行くと、その石はあった。"LOVE WILL TEAR US APART"と刻まれているMemorial Stoneが。
この映画の主人公Ian Curtisが眠る墓だった。

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錦糸町に向う前に渋谷のシネマライズで見たのが、このコントロール。70年代末-80年代初めのイギリスのロックバンド、Joy DivisionのボーカリストIan Curtisの青春≒短い生涯を描いた映画だ。

監督は、Joy Divisionの写真も撮ったという、写真家のAnton Corbijn。原作は、彼の未亡人 Deborah Curtis。共同プロデューサには、先ごろ亡くなった、かつてのFactoryの社長、Tony Wilsonも名を連ねる。

前評判は悪くない映画だったが、(特に前半は)青春映画っぽくて、不惑オヤジには少々辛いところもあった。これは、原作が、未亡人だからということもあるだろう。映画の中のIanは甘く、(女性にとって?)魅力的な存在として描かれている。
後半は、病、愛人と妻、ロックスターとしての自分に悩むIanの姿が一応描かれているのだが、少々詰め込み過ぎの感もあり、あまりしっくりこなかった。
愛人と妻について悩む彼の姿は、それなりにしっかり描かれていた。これも原作が未亡人だからだろうか。
その一方、彼の死の、良く知られた理由である、てんかんの発作のシーンは、何度も、そして深刻には描かれてはいるわりに、なにやらあっさりした印象。病気は病気として、彼の内面を表すものとして、あまり伝わってこない。ロックスターとしての彼の姿もしかり。ライブシーンやレコーディングシーンなんかもあるんだけれど、なにやら淡々としている。スターダムに乗っている、って感じでもない。

いずれにせよ、モノローグが少ないせいもあってか、彼の内面というのが、やや判り難く、ストーリも説明不足でやや判り難い点があった。

そんなわけで、全体的に深みがあまりなく、アッサリした印象。

とはいえ、楽しめた点もある。
まずは、Joy Divisionの曲が、単なる挿入歌ではなく、ストーリ上効果的にライブやレコーディングシーンとして使われていた点だ。(例えば、妻と上手くいかなくなった時のライブシーンにLove will tear us apartが使われるなど。)演奏も役者自身が担当したそうで、良い具合に下手(:-)でなかなか効果的だった。この点は、監督の面目躍如たるものがあると言うべきか。

それと、主な舞台となるMacclesfieldの街の雰囲気も、よく出ていたように思う。彼の暮した(そして死を迎えた)家も捜して行ってみたのだが、たしかに、坂の途中にあった。

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見ていて、最後のシーン、火葬場の煙突も、たしかにあんな感じだったなぁ、と思い出した。見終わって10年前の彼の墓での風景と、彼の人生がやっと繋がって感じられた。それが私にとっての最大の収穫のような気がした。