Soulnote の DAC と MQA


先日試聴会に参加したオーディオブランド Soulnote。その開発者の加藤氏が、「SOULNOTEはMQAに対応しないのですか?」との質問が多く寄せられるようになったとのことで、facebook で回答している。

結論としては、Soulnoteとしては対応する予定は今のところない。再生ソフトウェアのソフトデコードで対応して欲しい、とのことだ。

加藤氏は、その理由の第一として、MQAが「技術的内容が充分に公開されない中での認証ビジネス」である点を上げているが、技術的な面からも Non Over Sampling (NOS) を推している Soulnote としては、当然こういう回答になると思う。

ということで、以前MQA について調べたこともあり(2018-07-15 - 泡のようなBeerlog)、若干、私なりに補足してみたいと思う。

まず、MQA は、現代的な DAC Chip の多くが行う、オーバーサンプリングの弊害(特にプリリングによる時間軸上のぶれ)を低減することを一つの課題としている。(もう一つは、例のオーディオ折り紙によるファイルサイズの圧縮。)NOS DAC のように DAC でオーバーサンプリングをしなければ、そもそも、この問題は生じない、NOS というのは、このオーバーサンプリングの弊害・時間軸上のブレを解消する一つの方法だ。(マーケティング上の問題もあり、MQA はオーディオ折り紙をより強調しているが、音質的なメリットという点では、プリリングの弊害除去技術のほうが効果が大きいのではないかと、個人的には感じている。なお、いわゆる MQA のレンダラーというのは、オーディオ折り紙の再構成(コア・デコード)に加え、この DAC Chip でのオーバーサンプリングによる問題を DAC Chip の特定も考慮して除去する処理らしい。)
つまり、NOS を採用していることにより、MQA のメリットの一つは、別途解決済みで採用する技術的意味がないということになる。
もう一つのオーディオ折り紙は、確かにファイルの容量が小さくなることはメリットかもしれないが、音質的な問題でいうと、ハイレゾファイルが手に入るのならば、非可逆圧縮である MQA よりも、原理的に元音源(またはそれに近い)ハイレゾのほうが良い、ということになる。(これについては、若干議論もあるので後述。)
加藤氏は、MQA 音源がリマスターされている可能性も指摘しているが、そもそも、MQA のうち MQA Studio 仕様では、新録やリマスターが前提となっている。
http://bobtalks.co.uk/blog/mqa-philosophy/mqa-authentication-and-quality/#
MQA Studio の処理手順としては、スタジオマスターを MQA 社により MQA に変換したものを、プロデューサー等が聞き Authenticate する、ということのようだ。
無印 MQA についても、単純に可聴域以上の帯域を圧縮するのではなく、MQA 社側で、時間軸上のブレの除去処理等、いろいろ処理するようだ。なので、MQA / MQA Studio 共に、一種のリマスターと言って良いものだと思う。一部で MQA は強く支持されているようだが、それの理由の一旦は、ここにもあると思う。
これはある意味 MQA のアドバンテージといえるかもしれないが、ただ、この場合であっても、再生ソフトウェアのソフトデコード(コアデコード)により、マスタリング方式としての MQA のメリットは充分受けられるので、Soulnote の DAC のユーザはそれほど困らないだろう。(レンダラーによる処理は、そもそも DAC Chip でオーバーサンプルしているから必要となる処理だ。)デメリットとしては、再生に PC が必要なこと、MQA-CD を CD トランスポートから受けて MQA コアデコードが出来ないこと、ぐらいだろう。
なお、加藤氏は、MQA-CDについて、「bit落ちを覆す演出ですから、素晴らしいリマスター技術だと思います。」と書いているが、私もそう思う。付言すれば、個人的に MQA-CD を聞いた印象として、空気感や高域で音質的メリットがあるのと引き換えに、明かに低域の力感や明瞭性にデメリットがあるように私には感じられた。MQA 社は可聴域はリニア 12 bit でも実際上問題ないと主張しているが、私には問題は有りに感じられる。

ということで、Chord が MQA に批判的であるのと同様に、Soulnote が MQA に消極的なのには、ビジネス上の問題以前に、技術的にもデメリットがあるわりにメリットがあまりない、という側面があるのではないか、というのが、私の見解だ。(3社ともタイムドメイン重視なのだけれどね。)