Soulnote の DAC と MQA


先日試聴会に参加したオーディオブランド Soulnote。その開発者の加藤氏が、「SOULNOTEはMQAに対応しないのですか?」との質問が多く寄せられるようになったとのことで、facebook で回答している。

結論としては、Soulnoteとしては対応する予定は今のところない。再生ソフトウェアのソフトデコードで対応して欲しい、とのことだ。

加藤氏は、その理由の第一として、MQAが「技術的内容が充分に公開されない中での認証ビジネス」である点を上げているが、技術的な面からも Non Over Sampling (NOS) を推している Soulnote としては、当然こういう回答になると思う。

ということで、以前MQA について調べたこともあり(2018-07-15 - 泡のようなBeerlog)、若干、私なりに補足してみたいと思う。

まず、MQA は、現代的な DAC Chip の多くが行う、オーバーサンプリングの弊害(特にプリリングによる時間軸上のぶれ)を低減することを一つの課題としている。(もう一つは、例のオーディオ折り紙によるファイルサイズの圧縮。)NOS DAC のように DAC でオーバーサンプリングをしなければ、そもそも、この問題は生じない、NOS というのは、このオーバーサンプリングの弊害・時間軸上のブレを解消する一つの方法だ。(マーケティング上の問題もあり、MQA はオーディオ折り紙をより強調しているが、音質的なメリットという点では、プリリングの弊害除去技術のほうが効果が大きいのではないかと、個人的には感じている。なお、いわゆる MQA のレンダラーというのは、オーディオ折り紙の再構成(コア・デコード)に加え、この DAC Chip でのオーバーサンプリングによる問題を DAC Chip の特定も考慮して除去する処理らしい。)
つまり、NOS を採用していることにより、MQA のメリットの一つは、別途解決済みで採用する技術的意味がないということになる。
もう一つのオーディオ折り紙は、確かにファイルの容量が小さくなることはメリットかもしれないが、音質的な問題でいうと、ハイレゾファイルが手に入るのならば、非可逆圧縮である MQA よりも、原理的に元音源(またはそれに近い)ハイレゾのほうが良い、ということになる。(これについては、若干議論もあるので後述。)
加藤氏は、MQA 音源がリマスターされている可能性も指摘しているが、そもそも、MQA のうち MQA Studio 仕様では、新録やリマスターが前提となっている。
http://bobtalks.co.uk/blog/mqa-philosophy/mqa-authentication-and-quality/#
MQA Studio の処理手順としては、スタジオマスターを MQA 社により MQA に変換したものを、プロデューサー等が聞き Authenticate する、ということのようだ。
無印 MQA についても、単純に可聴域以上の帯域を圧縮するのではなく、MQA 社側で、時間軸上のブレの除去処理等、いろいろ処理するようだ。なので、MQA / MQA Studio 共に、一種のリマスターと言って良いものだと思う。一部で MQA は強く支持されているようだが、それの理由の一旦は、ここにもあると思う。
これはある意味 MQA のアドバンテージといえるかもしれないが、ただ、この場合であっても、再生ソフトウェアのソフトデコード(コアデコード)により、マスタリング方式としての MQA のメリットは充分受けられるので、Soulnote の DAC のユーザはそれほど困らないだろう。(レンダラーによる処理は、そもそも DAC Chip でオーバーサンプルしているから必要となる処理だ。)デメリットとしては、再生に PC が必要なこと、MQA-CD を CD トランスポートから受けて MQA コアデコードが出来ないこと、ぐらいだろう。
なお、加藤氏は、MQA-CDについて、「bit落ちを覆す演出ですから、素晴らしいリマスター技術だと思います。」と書いているが、私もそう思う。付言すれば、個人的に MQA-CD を聞いた印象として、空気感や高域で音質的メリットがあるのと引き換えに、明かに低域の力感や明瞭性にデメリットがあるように私には感じられた。MQA 社は可聴域はリニア 12 bit でも実際上問題ないと主張しているが、私には問題は有りに感じられる。

ということで、Chord が MQA に批判的であるのと同様に、Soulnote が MQA に消極的なのには、ビジネス上の問題以前に、技術的にもデメリットがあるわりにメリットがあまりない、という側面があるのではないか、というのが、私の見解だ。(3社ともタイムドメイン重視なのだけれどね。)

SOULNOTE & PMCでハイレゾロックを聴き倒す!

ちょっと前のことではあるが、最近話題の、Soulnote と言うオーディオブランドの機器でハイレゾ音源のロックを聞こうというお茶の水オーディオユニオンでのインストアイベントに行ってみた。

online.stereosound.co.jp
このSoulnoteは、CSRという、(D&Mホールディングス以前の)旧マランツの無線部門を源流に持つメーカーに旧NECのオーディオ部門の人材が加わってできたブランドらしい。特に音の「鮮度」を重視し、そのためにNon Over Sampling(NOS), No NFB といったフィードバック系を排除した技術を特徴としている。関連して、機械的な部分も比較的自由に動かし、ダンプをなるべくしない、といった特徴もある。こう書くとオーディオにありがちなトンデモかと思われるかもしれないが、facebookに連載されている、設計者の加藤さんという方の話を見るとそうでは(も?)なく、一応、正統的な理論は押さえつつ、その上で新たな仮説(主に時間領域重視)を立て、設計しているようだ。

https://www.facebook.com/soulnote2nd/

特に今回のシステムのDAC(D-2)はデフォルトがNOSかつアナログフィルタレスというかなり異端な仕様なのだけれど、ちゃんと検証した上でそのような仕様にしているそうだ。DACナイキスト周波数以上に現れるエイリアスノイズは、聴感上も電磁波ノイズ的にも問題なく、こちらの方が音(の鮮度)が明らかによい、とのこと。(視聴会でも実演してた。)
時間領域(タイムドメイン)が重要というのは、最近、あちこちで言われてることではあるけれど、アプローチが各社各様で面白い。イギリスのChordやMQAなんかも、自社の技術を語るとき、人間の聴覚の時間分解能は、、、ってあたりから話を始めるんだけど、その後のアプローチがまるで違うw
さて、イベントの音の方だが、確かに鮮度感はすごい。いわゆるハイエンドオーディオの美音系とは違い、音源によっては荒々しくも聞こえるものの、音の立ち上がりが鋭く、曇った感じが一切ない。ただ、「生々しい」、とはちょっと違うかな?とも感じた。映像に例えると、スポーツのライブ放送の荒いところもあるけど、とにかくハッキリシャッキリした絵のような印象を受けた。
あと、これはスピーカーの特性もあるだろうけど、低音のキレがめちゃめちゃ良かった。スパッと立ち上がってスパッとたち下がる。共鳴で量感を出した音ではない。この試聴会のようなロックには向いてると思う。スピーカの口径はそれほど大きくないので、重低音まで出てるという感じではなかったけど、個人的には無理に低域を伸ばした音よりも好みではあった。
次に、印象的だったのは(ハイレゾじゃなく)CDクオリティのデジタル信号をこのシステムで再生した場合、CD再生でよく感じる、高域の詰まった感じがほとんどないこと。これは、私の使ってるユニバーサルプレーヤのUDP-205(今回試聴したシステムとDACチップは同じ)でもその傾向はあるのだけど、NOSのこちらのシステムの方がずっとその傾向が強い。
しかし、鮮度感というのは、物理的にはどういう現象なのだろう?スルーレートの良さ?20kHz以上の適度の信号がもたらすもの?(ハイパーソニックエフェクト的には、可聴域以上の音がなっていることが重要で、周波数はあまり関係なさそうだし。)このシステムはデジタルフィルターなし、アナログフィルターなしなので、可聴域外にはそれなりにノイズが乗っているはずなので、ある意味ニセレゾ的な信号になってるよなぁ、とも思った。それに、この音はある意味人間にとって心地よい音だけれど、「正しい音」なのかもよく分からなかったのが、正直なところ。
大変特徴的かつ興味深い音のするシステムで、なかなか良いとは思ったものの、特徴的過ぎて万能とは言い難かった(もっとも、DACのデジタルフィルタをオンにすると割と一般的な美音系ではあったけど)のと、使いこなしが難しそうだったので、たとえお金があっても、残念ながらこのシステム(特にDACのD-2)は買えないだろうな、とも思った。似たような価格帯なら、Mytek / Manhattan DAC IIの方が無難かなぁ、ともw(ヘッドホンアンプとしても使えるし。)
ともあれ、内容的にはとても興味深いイベントだった。ビーチボーイズハイレゾなんて、こんな機会でもないと聞かなかったと思う。

Soulnoteの音は刺さる人にはすごく刺さると思うので、その筋の方には、機会があったら、聞いてみるのをお勧めします。

MQAの技術的な面を調べてみた。

最近、対応機器が増えてきたり、MQA-CDなんてCDに応用した製品が出てきたようでデジタル・オーディオ・フォーマットのMQA https://www.hires-music.jp/mqa/ についての記事を目にすることがまた多くなってきた。(例えば、https://www.phileweb.com/review/article/201805/24/3042_2.html
しかし、このMQA、Webの記事等を見ても、技術的に今一つ良くわからない。概要はなんとなくわかるものの、意図的に技術の詳細には触れていないように思われ、個人的には、どうにもしっくりこなかった。特に基本的なところでも疑問点がいくつもあった。
そこで、重い腰を上げて、ちょっとMQA関係者(特に開発者のBob Stuart氏)の書いた論文や特許文献をググって調べてみた。

MQAに関する疑問点のまとめ

さて、詳細は技術的にちょっと込み入ったところもあるので、先に結論と言うか、私が疑問に思った点で、分かったことを書いておく。

Q. MQAはロスレス(可逆圧縮)なの?ロッシー(非可逆圧縮)なの?
A. これは明確にロッシー。聴感上の影響が出ないようにかなり工夫してあるが、ロッシーなのは間違いない。(可聴域に関してもビット数を減らしてリサンプリングしているので、情報量は減っている。可聴域外の高域だけ見るとリサンプリングした後はロスレスの場合もあるが、全体としてロッシー。)
MQA社は、彼らの主張する実質的なロスレスのことをロスレスと呼んでいる。例えば、文献[1]に見られるように、彼らの文書中のロスレスという言葉は、一般的な意味でのロスレスではない場合があるので注意が必要だ。

Q. MQAデコーダが無くても再生出来るそうだけど、その場合でもメリットがあるって本当?
A. MQA社が主張するブレ、ボケを少なくする技術は、ある程度効きそうなので、効果はあるのかもしれない(推測)。
明らかに言えるのは、可聴域の情報量は落ちているので、総合的に効果があるかどうかは、これらのメリット/デメリットのトレードオフの問題かと思われる。

Q. 時間的ブレ、ボケを低減する技術とオーディオ折り紙って関係する技術なの?
A. 二つの技術はそれぞれ独立した技術。ブレの方は、サンプリングレート変換等でデジタルフィルタを使用した時にその悪影響を低減する技術なので、主にエンコード時の前処理(又は、DACの前のデコーダ)で使う技術。オーディオ折り紙はエンコード/デコード処理そのもの。使おうと思えばそれぞれ独立に使える。

Q. オーディオ折り紙って結局、ダウンサンプリングじゃないの?それに、下位ビットに高域の信号が本当にロスレスで格納できるの?
A. いくつかバリエーションがあるようだが、代表的な方法としては、ダウンサンプリング+高域信号と可聴域の低域信号への帯域分割、低域信号のビット数を減らしリサンプリング+ノイズシェーピング、下位ビットへの高域信号のロスレスまたはロッシーな圧縮による埋め込み、と言うもののよう。後述する文献では96KHz/24bit -> 48KHz/24bitに変換する場合であれば、多くの場合、帯域分割された高域信号は24bit中の下位の8bit信号にロスレスで圧縮できるとのこと。
ただ、MQAでは使える情報量に応じていくつかバリエーションがあり、例えば、16bitに変換するものは、上位13bitを可聴域をリサンプリングしたPCM、下位3bitを非可逆圧縮した高域成分に割り当てているようだ。(MQA-CDはこのパターンと思われる。)
なお、オーディオ折り紙については、ベースとなる先行研究がある(後述)。

Q. 時間的ブレ、ボケを低減する技術の説明を読んでも効果が書かれているだけで、今ひとつピンとこない。サンプリング周期より短い時間分解能を謳ってるけど、原理的に無理では?
A. この点に関しては、今回の調査でも今ひとつ分からなかったところ。MQA社の主張では、最近の音響心理学等の成果によると従来考えられていたより人間の聴覚の時間分解能は高く、5-8μsあるとのこと。このため、サンプリングレート変換(以下”SRC釤)等でデジタルフィルタを使用すると本来の音より時間的に前に発生する音である「プリリング」が音質に与える影響が大きいとのこと。今回の調査では、MQA社の文献から特殊なデジタルフィルタを使うことにより、このプリリングの影響を抑える技術を発見した。ただこれは、MQA社の説明とやや矛盾がある。(詳細は後述。)サンプリング周期より短い時間分解能をうたっている点については良くわからないが、サンプリング周期より短い時間分解能というのは、確かに原理的に無理なので、おそらく、プリリングやポストリングの影響を10μsターゲットに抑えようという意味ではないかと思われる。

今回の調査で見つけた情報

では次に、今回見つけた情報(文献等)を示そう。
[1] Stuart, B., Howard, K., About MQA (Master Quality Authenticated), JAS Journal, 2015, Vol. 55, No.6, http://www.jas-audio.or.jp/jas_cms/wp-content/uploads/2015/12/201511-045-057.pdf
MQAのコンセプトについて解説した日本語の論文。MQA社(関係者)の日本語による解説としては、これが一番詳しい。

[2] Stuart, J. R., Craven, P., A Hierarchical Approach to Archiving and Distribution, AES Convention: 137 (October 2014) Paper Number: 9178, http://www.aes.org/e-lib/browse.cfm?elib=17501
MQAのコンセプトについて解説した英語の論文。MQA社(関係者)による解説としては、これが一番詳しいと思われる。

[3] JP2018-503296A(WO2016087583A1) https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H30503296/51E65AE9871F0F3640A3587D04B4E43B
MQAの時間的ブレ、ボケを低減する技術に関連すると思われる特許文献

[4] JP2015-519615A(JP6264699B2)(GB2503110A) https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H27519615/4E2592853EBF9817225E20ADA48FA86B
MQAのオーディオ折り紙に関連すると思われる特許文献

[5] KOMAMURA M, Wide-Band and Wide-Dynamic-Range Recording and Reproduction of Digital Audio, JAES Volume 43 Issue 1/2 pp. 29-39; February 1995
[6] JP1993-290509A https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H05290509/AE610761A293AD4504A1ACE8870D4D55
MQA社がオーディオ折り紙の参考にした、パイオニア(当時)の駒村 光弥氏による論文と特許文献

[7] Calderbank A. R., et. al., Wavelet Transforms That Map Integers to Integers, APPLIED AND COMPUTATIONAL HARMONIC ANALYSIS, 5, 332 – 369 ( 1998 ), https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1063520397902384
オーディオ折り紙で用いられている「リフティング」技術に関する論文

MQAについてのおさらい

さて、本題に入る前に、整理のためWeb等で見かけるMQAの概要について簡単に復習しておこう。
MQAは"Master Quality Authenticated”の略で、単なるフォーマットというよりは、「全録音/再生行程を包括した技術=哲学」だそうだ[1]。そして、MQAは2つの技術的特徴からなる、と説明されている。1つ目は、時間的なボケ・ぶれを減らす技術、2つ目は、「オーディオ折り紙」と呼ばれる、独自の圧縮技術だ。
まず、1つ目の特徴(ブレ・ボケ低減)に関して。MQA社によると、現代のデジタルオーディオの様々な工程で使われているデジタルフィルタは、時間の滲みや、時間のボケを増加させるが、これは最近の研究では、以前考えられていたより音質に与える影響が大きい、とのこと。1つ目の特徴は、このブレ等を改善するという。時間分解能としては、現在のところ10μsをターゲットとしている、という。
そして、2つ目の特徴(オーディオ折り紙)は、例えば、48KHzのレートのデータにPCMで96KHz相当の音質のデータを記憶することができ、かつ、MQA非対応機器でも再生可能であるオーディオフォーマットを実現する、というものだ。

オーディオ折り紙

では、この中のオーディオ折り紙から見ていこう。これは、前述の通り[4]の文献に対応するようだ。
概要としては、上のPhilewebの記事のとおりで、例えば元データとして、96KHz/24bitのリニアPCMハイレゾデータがあった場合、それを半分のサンプルレートの48KHz/16bitにダウンサンプル、ノイズシェーピング+リサンプリングし、一方で48KHzより高い高域のデータを可逆(ロスレス)圧縮して、48KHz/24bitの下位8ビットに格納するというもの。(バリエーションとして、高域を非可逆(ロッシー)圧縮することもある。)高域データの圧縮方法を適切に選らべば、下位ビットに格納されたそのデータをPCMデータとして再生しても、微小な楽音と関係のないノイズになるので、デコードせずに再生しても音質に与えるデメリットは少ない。また、高域の情報量はそもそも少ないため、ほとんどの場合、48KHz/8bitでも充分ロスレス圧縮は可能、とのことらしい。

デコーダ及びエンコーダの一例(文献[4]より)。この例では、96KHz/24bitのデータを13bitにリサンプリングしてから、48KHzを境に帯域分割し、低域はそのまま、高域は3bitへのロッシー圧縮と、その3bitのロッシー圧縮の誤差を考慮した8bitへのロスレス圧縮を組み合わせている。リサンプリングしているので完全なロスレスではないが、リサンプリング後の信号に関しては、簡易な(16bitしか扱えない)デーコダの場合は、高域はロッシーな伸張を、24bit対応のフルのデコーダの場合は、高域はロスレスで再生できるようになっている。MQA-CDはおそらく、この上位16bitを用いた簡易版のエンコード・デコードになるのではないかと思われる。


ただ、このオーディオ折り紙は、90年代に(当時)パイオニアの駒村光弥氏の開発した技術[5], [6]がベースになっていて、オーディオ折り紙はこれを現代的に改良したものとも言えそうだ。駒村氏の文献によると、元データのサンプリングレートが96KHz/16bitの場合、帯域分割により、0-24KHzの信号と24-48KHzの信号に帯域分割し、0-24KHzの信号はノイズシェーパを通して、48KHz/15bitにリサンプリング、24-48KHzの信号は、ADPCMで2bitのデータに変換し(24KHz/2bitのADPCMとなる)、両者を合成して16bitのデータを作成するという。
ここで、リサンプリングする際にノイズシェーパを使用するのがポイントらしく、ノイズシェーパを上手く設計することにより、ノイズが目立つ帯域の(再)量子化ノイズを減らし、耳の感度の悪い高域にノイズを追いやることができるとのこと。ただし、この駒村氏の文献では、24KHz以上の高域データは、サンプリングレート24KHz/2bitのADPCMデータに変換されるので、かなり割り切った圧縮と言える。当時の技術の限界だったのだろうけれど。
これに対し、MQA社の[4]では下位ビットにロッシー、ロスレス両方の圧縮パターンをうまく組み合わせて、使えるビット深度やデコーダの性能に合わせて、高域の再現度を比較的低いものからロスレスまで対応できるように工夫されている。ここがオーディオ折り紙の実装上のひとつの要と思われる。
それともう一つ、文献[4]は実装上かなり有効な改良がなされており、リフティング[7]と言う手法を使い、奇数番目のデータと偶数番目のデータを並列に処理(インターリーブ)することにより簡易かつ高速に帯域分割や、その他の信号処理が行えるような工夫がしてある。
(この辺の実装上の改良は、個人的にはエレガントでかつ現実的。大分、作り込まれている印象を受けた。)

時間的なボケ・ぶれを減らす技術

次に1つめの時間的なボケ・ぶれを減らす技術だが、今回調査した範囲では、[3]の文献が一番関係が深そうだ。MQA社の幾つかの説明にも見られるように、現代のデジタル音源制作にはサンプリングレートコンバータ(SRC)が使われる場合が多く、このSRC処理に伴って発生する「プリリング」(「プリレスポンス」とも)をMQA社は問題視している。この文献の技術の基本的考え方は、プリリングがフィルタのナイキスト周波数周辺に発生することを利用して、その帯域のみ遅延させるフィルターを通すことにより、プリリングを時間的に後ろにずらし、その影響を少なくする、というもののようだ(そのかわり、ポストリングは長くなるけれど、これは音響心理学上、あまり問題にならない、とのこと。)従来技術として、ナイキスト周波数周辺の信号を低減するデジタルフィルタというアイディアがあったが、これには副作用があるので、さらに改良したのがこの技術、とのことのようだ。
実施例には幾つかのバリエーションがあり、一つは先のナイキスト周波数周辺をカットするフィルタの位相特性を変更して、位相を後ろにずらし、ナイキスト周波数周辺の信号を低減しつつ、時間的にも遅らせるというもの。もう一つは、周波数特性は(ほぼ)変えず(オールパスフィルタ)、時間軸上でナイキスト周波数周辺の信号を遅延させるというもの。文献[3]には割と具体的なフィルタのパラメータとその特性の説明が比較的詳細に記載されている。

文献[3]に記載されたナイキスト周波数周辺をカットするフィルタ(3次IIRフィルタ)(従来技術。最小位相フィルタ)の周波数特性。(下記の最大位相フィルタも周波数特性は同じ。)

最小位相フィルタの伝達関数複素平面表示。零点(○)が単位円内のナイキスト周波数付近に、極(×)が単位円内にある。

最小位相フィルタを改良した最大位相フィルタの伝達関数複素平面表示。零点(○)が単位円外のナイキスト周波数付近に、極(×)は最小位相フィルタと同じ位置にある。これにより、ナイキスト周波数付近の信号を減衰しつつ位相を遅らせるフィルタとなっている、とのこと。

上がArcam FMJ DV139プレーヤーのインパルス応答。下が上記従来技術のフィルタによって処理されたArcamのインパルス応答。プリリングが抑制されている。

上が従来技術の最小位相フィルタ、下が最大位相フィルタのインパルス応答(上の図のスケール10倍とのこと)。「最大位相フィルタは、メインパルスの直前の下への振れを最小位相フィルタに対して4dB低減し、他のプリレスポンスを6dB以上低減することを示している。」とのこと。ポストリングは重畳されているので、逆に増えてはいるようだ。(以上文献[3]より引用。)


では、これらのフィルタをどう使うかなのだが、マスタ段階で既にSRCされている場合は、マスタ自体が既にプリリングを含むので、このフィルタを用いてプリリングの影響を低減してから、その後の処理を行う、というのが一つの使い方。もう一つは、DAC側で使用するもの。文献[3]からは今ひとつよく判らなかったが、おそらく、DACチップに外付けでSRC(デジタルフィルタ)を使用している場合など、デジタルフィルタのアルゴリズムをこの技術を適用したものに変更する、という使い方のようだ。適切なフィルタはDACのハードウェア依存になるため、MQAのデコーダは当初ハードウェアだけ(現在はAudirvanaなど、ソフトのデコーダもある)だったのは、PC上のソフトウェアではこのDAC側の処理ができないから、という事情も絡んでいるのかもしれない。
さて、ではこれがMQAの時間的ブレ、ボケを低減する技術そのものであるか?というとちょっとその点は不明である。文献[1]等では、ポストリングも60μsぐらいで収束しているが、文献[3]の図では、縦軸に単位がなく、横軸の単位はサンプル数とあり、この波形が正確には何を表しているのか、今ひとつ不明。まぁ、おそらくは図に対応するのだとは思うが。。。
文献[1]に記載のMQAの周波数特性とインパルス応答。スローロールオフ的なナイキスト周波数(この場合は48KHz)を減衰する位相遅延フィルタのように見える。


また、文献[3]には、明らかに時間分解能(のターゲット)が10μs云々という記載はない。文献[3]ではサンプリング周波数96KHzのデータを一旦48KHzにしているので、最終的にアップサンプリングして96KHzに戻しているとはいえ、時間分解能が元に戻ることはない。20μsほどの時間分解能のはず。今回調査して発見できなかった技術が、MQAには使われている可能性もなくはないのだが。(というのが、今回の調査で今ひとつ判らなかった点。)


以上がMQAについて簡単に調べてみた結果である。疑問点が少しは解消されただろうか?この記事が、皆さんの、MQAの技術としての評価や、実際の音源や再生システムについての評価の際の判断材料の一助となれば幸いだ。(MQAについての個人的な意見は、この記事ではあえて触れない。ただ、マーケティング上の要請は理解するものの、MQA社には、混乱を招くような説明や用語の使い方は避けていただきたい、とだけ書いておく。)

終わりに

以上です。8/20は断念しました(というか体力的に明らかに持たなかった。)。
しかし、2014年に見た人、結構また見てるなぁ
http://d.hatena.ne.jp/tearus/20140915#1410790044
あ、Beerlog的には、今年のオフィシャルビールはプレミアムモルツプレミアムモルツブースでは香るエールも提供していました。オフィシャルバーでの提供品はイマイチのコンディションだったけど、プレモルブースでのものはまぁまぁのコンディション。あと、気合の入った一番搾りブースは今年はなかった。。。

Summer Sonic (8/19)

Pikotaro@Marin

やはり客あしらいが上手い。短いながらもとても楽しいステージだった。ただ、朝一にもかかわらず、すごく熱くて汗ぐっしょり。

ベッド・イン@Beach

1曲半だけ聞くことができた。彼女らは「(地下)アイドル」というくくりでいいんですかね?客とのコミュニケーションとかいろいろアイドルっぽい。が、80年代歌謡ロックという感じで演奏もボーカルもしっかりしている。時間と会場には違和感があるが、サマソニ向きだと思う。ブレインが凄そう。サンクスモニカ!

Kero Kero Bonito@Rainbow

CL(2NE1)も大森靖子も気になったのだけれど、メッセを離れるのも大変だったので、Kero Kero Bonitoへ。とにかく kawaii ステージ。バックの二人も小技をちょこちょこ入れてくる。
Chibo Matto を思い出すのは確かだけれど、もっとポップでダンサブルで kawaii

中田xきゃりー@Sonic

きゅりーのソロ -> 中田+きゃりー -> 中田のEDM DJセット -> 中田+きゃりーという流れ。
きゃりーはずいぶんシンプルな緑系のアースカラーのワンピースで出てきて、とても驚いた。Kero Kero Bonitoと違って kawaii じゃない!男性ダンサーを従えてのステージで、カッコイイステージだった。これはこれで、とても良くできていた。きゃりーのパフォーマンスも良い。中田+きゃりーのセットではきゃりーの曲をEDMっぽくアレンジしなおしたEDMセット。これはこれでアリだと思う。原宿いやほいはEDMとして聞くといいのだな。その後きゃりーが退場して、Perfumeの曲なども含めたEDM DJセット。中田氏は今EDMがやりたいのだな。個人的にはこの路線は悪くないと思う。もっとやってほしい。

Blood Orange@Sonic

ちょっとだけ。フロントマンの Devonte Hynes が多彩なのはわかったけれど、ちょっと自己完結しすぎている印象。

TRF@Rainbow

レジェンド DJ KOO と SAM が動いているのを確認して退散。やはり音的には今聞くとキツい。

Suchmos@Mountain

話題の Suchmos. ボーカルがちょっと自意識高そうな感じだったが、雰囲気のある声で音程もしっかりしていて悪くない。全体的に良い具合にオシャレではあるのだけれど、こういうバンドはリズム隊がしっかりしていないと今一に聞こえがち。ベースがあまりタイトでなくて、ときどきガチャガチャした印象になったのが残念。(まぁ、前日のShobaleader Oneみたいなすごい演奏や、直前にちょっと聞いたBlood Orangeのリズムが良い具合にグルーヴしてたので、というのもあるかもしれないけれど。)

Phoenix@Mountain

前回あまりちゃんと聞かなかったPhoenixを今回はわりとしっかりと聞いた。演奏も完璧だし、ビジュアルもかっこいいし、文句なく楽しめた。

欅坂46@Rainbow

ちょっとだけ。乃木坂は白石麻衣さんとか齋藤飛鳥さんとか識別できる(w)人いるけれど、欅坂はだれも知らない。。。これだけ人数が多いとマスゲームに見える。

Justice@Sonic

前日は今一に思えたのだけれど、この日は、音量もそこそこ大きく、なにより客のもり上げかたがよくわかったセットで、かなりハマってしまった。けっこう踊ってしまい、疲れてKasabian行くのはやめて帰宅した。

Sonic Mania

Pandas@Space Rainbow

中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES) + TK(凛として時雨)のユニット。
(すみません、凛として時雨は聞いたことがないです。)
ツインドラムというのがちょっと驚いた。
どういう感じなのかまったく予想できず、とりあえず、その後の中野さんがどういうことをしているの見てみたいという思いで聞いてみたが、ブンブンとは明かに方向性が違い、ややポップな感じでけっこう楽しめた。音源が出たら聞いてみたい。Rising Sun にも出ていたのか。

Perfume@Crystal Mountain

一曲目のFlashはキレッキレ、後半のワンルームディスコは良い感じに力の抜けたパフォーマンスで、円熟のPerfumeという感じ。やはり、PerfumeSummer SonicよりSonic Maniaのほうが良いね。ただ、最近の楽曲はちょっと以前に比べると特徴が薄れているなぁ。

Justice@Sonic Wave

音が小さかったのと、Perfumeが圧倒的だったので、ちょっと普通に感じた(この日は)。

Liam Gallagher@Crystal Mouontain

個人的にOASISに思い入れがないので、ちょっと見ただけだけど、ヴォーカリストとしては非常に魅力のある人だというのは良くわかった。OASIS世代の人には、とても良いパフォーマンスだったんじゃないかな。

Shobaleader One@Sonic Wave

なんと、航空会社の手違いにより、機材が北京にある。楽器は手配したが、本来は特別にカスタマイズした楽器を使っているので、ベストは尽すが通常とは異なるパフォーマンスになる旨の表示がライブ前にあった。ちょっと残念に思っていたが、実際にライブが初まると(私は初見で通常のセットというのも知らないので)そんなこと関係なく楽しめた。完璧なリズムを刻む人力ダンスミュージック(主にドラムンベースフュージョン風味)に圧倒された。
Square Pusherを初めて聞いたとき、テクは凄いけど、フュージョンっぽいのがどうも様式的に好みでなくて、その後敬遠していたのだけれど、これは純粋に楽しめた。今回のベストアクトの一つ。

D.A.N.@Space Rainbow

先日のイベントで小野島大さんがかけていたこともあり、ちょっとだけ聞いた。音源で聞くとオシャレでいいけど、あまりライブ向きではないのかもしれない、という印象。

Kasabian@Crystal Mountain

好きなバンドだったのだけれど、ライブの印象がちょっと私の期待していたものと違っていたようで、あまりピンとこなかった。(特にボーカルかなぁ。)あまり多くは聞かなかった。

電気グルーヴ@Sonic Wave

今回は、特にネタもなく真面目に淡々と演奏していた印象。いろいろ完成されている感はある。

Orbital@Crystal Mountain

こちらもある意味淡々としていたのだけれど、場の雰囲気作りとかすごく上手い。久しぶりにOrbialで踊ったなぁ、。