文章書きとプログラミングの相似性と深い溝

某知人のブログから知った。id:araignet:20071020:1192811893について。

内容的にはid:araignetさんは、議論を呼ぶような(最近の用語では「釣り」というんですか?私はオヤジなので良く判らないけど。)エントリを書きたかったんだろうな、という気もするし、内容的にはあまり言うことはないのだけれど、文章の上手い人っているんだなぁ、と、妙なところで感心した。

技術系とはいえ、一応、「文書」を書くことが多い仕事をしている私なのだが、「文章」を書くことが苦手。そんなわけで、この文章には、ただただ感心させられる。

予想されるツッコミとそれへの反論、「何て言うんだっけ……あ、オタクだ。」というリフレイン。この文章は、その構造と機能が明確だ。そして、それが、議論を呼びこむ意味で効果を上げている。

しかし、うまいなぁ、と思いつつ、つらつらこの文章を見直していたら、それがなんだか、(開店休業状態だけど)サンデープログラマの私には、この文章の構造が、なんか良くできたプログラムコードのようにも見えてきた。

どういうことかというと、この文章は、タイトルにもある「初音ミクの魅力がオタクでない僕には分からない」という主題を、読者の予想されるツッコミに反論する形で、幾つかのバリエーションを上げて説示してるんだけど、これって、プログラミングにおける、コンセプトの決定とユーザの使用モデルを考慮したシナリオ設計、それらに基づく基本アルゴリズムの設計と、それを実現するクラス構造、サブクラスの実装なんてものに置き変えることができそう。

そういう目でみると、この文章はロジカルには、とてもよくできている。それでいて面白い。

と、まぁ、こういう文章の作り方は、プログラミングのアナロジで理解できなくもないんだけど、実際にこういう文章が自分に書けるかというと、まるでだめ。

ロジックは書けてもロジカルな文章は書けない。ましてや面白い文章は書けない。文体の面白さや、文字面から現れる面白さってのは、私には理解できても、産み出せない、表現できない。私の脳の壁の外にあるなにかが必要なんだろうなぁ。。。

文才って、どういう才能から構成されているものか、よくわからないけど、確実にあるんだなぁ、と改めて感じてしまった。

さて、話はかわって、上で内容については、「あまり言うことはない」とは書いたものの*1、技術系の人間として、初音ミクの技術を

まぁ、基本的に「枯れた技術」だよね。

と良い切られてしまったのは、ちょと悲しかったので、技術的背景について書いてみる。
ヤマハは90年代から、フォルマントシンギングによる歌唱音声合成技術を実用化していたので(http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/read/sg/first/1_04.html)、コンピュータに歌を歌わせようという技術領域は、これは、ある意味古くからあるものと言えるのは確か。
では、Vocaloidは何が違うのかっていうと、ヤマハのサイト(http://www.vocaloid.com/jp/features.html)によるとVocaloidの技術的トピックは、「周波数ドメイン歌唱アーティキュレーション接続法(Frequency-domain Singing Articulation Splicing and Shaping(FSASS))」だそうで、これによって、滑らかな歌声になるとのこと。(上のサイトにはあまり大した説明はないけれど、特に図を見ていただくと概要は理解できると思う。)

さらに、特許電子図書館ヤマハの特許を調べてみると、どうも、このFSASSの基本技術は、浜松ではなく、バルセロナのチームによる技術のようだ。(うーん、メイドインジャパンじゃないんだ。。。)
多分、基本的な技術は特開2003-255998号「歌唱合成方法と装置及び記録媒体」。そして、これと関連した技術が、特開2002-268658号、特開2002-202788号、特開2006-215204号、特開2006-119674号などに見られる。(Vocaloidの発売時期から考えると、2006年公開のものは、Vocaloid 2に使われた技術なのかな?)
基本技術の概要は、上のヤマハのページの図のとおりで(詳しいことは、特許電子図書館で公報を見ていただくとして)、これらの技術は、既存の技術の改良といえば改良なんだけど、かといって、そんな簡単な技術だろうか?周波数領域でのスムージングは、そんな簡単な技術でもない。そして、初音ミクを聞く限り、この技術はなかなか効果がありそうだ。

もちろん、一般の人にとって、これがたいした技術じゃない、と思われたら、それはそれでしようがない面もある。

でも、科学や技術の評価は一般の人にとっては、結果がすべてだけど、科学や技術の発展との考えでは、その過程(どういう技術を使っているか)、も重要だ。
そんなわけで、効果のある新技術が採用された製品を、「基本的に「枯れた技術」だよね。」なんて、安易に言いきってほしくはなかったかな。
もちろん、初音ミクは、技術的側面もさることながら、「商品企画」の勝利という側面のほうが大きいことは承知した上での話だけど。

*1:部分的には、この文章に頷く点も多いしね。