最近読んだ本

  • あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴 / 山岡 淳一郎 ISBN:4794212992

plank 氏が紹介( id:plank:20050509 )していたので読んでみた。内容については、既に plank 氏が紹介されているので、ここではあまり触れない。
plank 氏は読むと暗くなると書いていたけど、私はというと、まぁこんなもんだろう、という印象。
本書の中で、マンションに纏わる幾つかの問題点に対する解決策は示されている。しかし、立て替えに関する問題のルポや政治の問題に多くのページを裂いている。これでは、全体的に暗い印象を受けてもしかたないだろう。また、問題の解決策の多くを法律や環境の大きく違う海外に求めている点も、その解決の遠さを強く印象付けることになっていると思う。日本における先進的事例も述べれているが、やや小粒な印象も受ける。なにより、日本の今そこにある法律や政治の壁は非常に厚く高い。これに対してどう感じるかによって、本書の印象は大分かわってくるはずだ。私にとっては、この法律や政治の問題は想定の範囲内だった、ということだろう。
もう少し、個別の話をすると、まず、日本の区分所有法より、イギリスなどの定期借家権のほうがリーズナブルだ、というのは私も以前から思っていた。この点では、少々我意を得たり、といった感じ。やはり、公共財としての側面が強い住居や土地には、ある程度の専門性と中央集権的な管理と意思決定が求められると思う。中央集権的といっては、語弊があるかもしれない、間接民主主義的なほうが良いと言ったほうが良いだろうか。現在のマンションの管理組合のような直接民主主義的な制度では、直接民主主義の悪い点、専門性も公共的な観点にも乏しい住民による衆愚政治的な側面が、どうしても出てしまいがちのようだ。
そして、やはり持ち家信仰は捨てるべきではないか、所有権ではなく利用権で良いのではないかとも、改めて思った。
次に外断熱。筆者はこの本の前に、外断熱の本も書いているくらいで、外断熱派のようで、この本でもさほど強調はしていないけど、外断熱とマンションの躯体の寿命について言及している。個人的には、外断熱は、まぁ、日本のマンション事情にどこまで適合させられるかが、一つのポイントだと以前から思っていた。そんな折、先日、一級建築士の人と話す機会があったので、マンションの外断熱についてちょっと聞いてみた。彼の意見では、外断熱が良いのは間違いないけれど、施工やコストの問題がある。まだ、日本では状況が整っていないのではないか?とのことだった。逆に言うと、数年後には外断熱が主流になるかもしれないわけで、今マンションを買う人は、数年後、建物の価値がガクンと下がるのを覚悟したほうが良いかも?
いずれにせよ、マンションを安易に建て替えするのではなく、長持する工法を用い、社会的ストックとして有効利用しようという、筆者の姿勢には、賛成ではある。ただ、日本人の新しもの好きを考えると絶望的な気もする。
田中角榮の話は、本論とはあまり関係ないけど、力が入っていて面白かったとは思う。
全体としては、海外にまで取材するなど、かなりの力作。確かにマンションを購入した人、購入を予定している人は読んでおいたほうが良いかもしれない。
(個人的には、この辺の問題は、わりと楽観視してるんだけど。時が解決してくれることもあるし。ま、間違いなくマンションの資産価値はかなり下がりそうだけどね。)

日本人の起源の話は昔から人気があるけど、これは遺伝子から見たもの。しかも著者は分子遺伝学が専門の東大の先生。なので、非常に真っ当な本だった。この手日本人ルーツ本にありがちな、「トンデモ」度が非常に小さい。そういう意味では、ある意味面白くないとも言えるかも(おいおい)。とはいえ、平易に書いてあるけど、内容的にはしっかりしていて興味深い。
幾つかの観点から幾つものデータを示しているのだけれど、その幾つものデータが語るのは、遺伝子の観点からは、本土日本人は、沖縄人とアイヌ人と近く、その次に朝鮮半島人と近い、ということのようだ。本書の内容はそれに留まらず、DNAの話一般や、日本を中心とした古代DNAの話もある。やや蛇足ぎみではあるが、日本語の起源についての考察もある。著者の専門外の話なので、話半分ぐらいに聞いていたほうが良さそうだが、比較言語学で行われる定性的な議論だけでなく、定量的な議論も必要だという筆者の意見は納得できるし、その定量的な考察はある程度の説得力があるようにも思う。
トンデモ本を笑うための基礎知識を得るための一冊としておすすめだ。(?)

  • ビール職人、美味いビールを語る / 山田 一巳, 古瀬 和谷 ISBN:4334031439

以前、元キリンビール橋本直樹氏の「ビールのはなし〈Part 2〉おいしさの科学」ISBN:4765544125 を取りあげたけど、この本の著者の一人、山田氏も元キリンの人(もう一人は彼に取材して実質的にこの本を書いたライターの方)。現在は、清里の萌木の村・八ヶ岳ブルーワリーの醸造長を勤める。
橋本氏がバリバリの研究者だったのに対し、山田氏は、工場叩き上げの人。内容も橋本氏がビールの理論的な話が中心だったのに対し、山田氏のほうは、ビール職人の半生を語るといった感じ。でも、キリンのビールの製造という、同じものを違う観点で見ているので、両方読むと非常に興味深い。
本書のクライマックスは一番搾りの開発の話で、プロジェクトX的な面白さがあった。*1その後、清里でのビール作りの話題も面白い。
本書を見る限り、氏の好むビールは、良質の日本のビールのようで、私の好みとは違いそうな気はするのだが、氏のビール造りの姿勢をみると、清里行ってみたくはなった。とても。

*1:一応、デザインでしりあがり寿がプロジェクトに関わったことに言及してあった。